成瀬一草先生インタビュー | 新たな扉のムコウガワ。Vol.1
インタビュー・コラム 2017.08.11 18:00
BL作家の先生方の普段は見えない裏の部分に迫るインタビュー企画より、新コーナー『新たな扉のムコウガワ。』がスタート!
コーナー第1回のゲストは、成瀬一草先生。
こちらのコーナーでは、「読者やクリエイターの皆さんの新たな扉を開ければ」という思いから新進気鋭の商業BL作家さんをフィーチャーし、ここでしか読めないフレッシュなインタビューをお届けします!
成瀬一草先生インタビュー
―先生の作品が生み出されている創作現場について教えてください。
成瀬先生:作業環境はこんな感じで、写っているのは何の変哲もないモニタと、何の変哲もない作業用動画(映画とかアニメとか)流すタブレット(左側中央)と何の変哲もないちょっと前の型のintuos(板タブ)です。漫画家さん、液タブ使ってる方多いですが、わたくしいまだに板タブなんです。
ただ、右側にちょっとPCの筐体見えてますが、PCの中身は漫画に特化したスペックで組んでます。ハイエンドCPU乗せて、限界までメモリ積んでお高いグラフィックボード入れてますので、使用ソフトのクリスタが重いと感じることはありません。
あと画面真ん中の目薬ですね!(欠かせない)
板タブが緑色なのは、何の変哲もないコピー用紙を貼り付けてるからです(描き味の問題)。
あ、あと板タブの上のゴミみたいなのは、指先切った手袋(作画中はめてる)です。
―全然ゴミみたいじゃないですよ!(笑) 続いて、原稿作成の手順をお伺いできますか?
成瀬先生:ゴミに見えなくてよかったです(笑) 作業手順は以下の流れになります。
- 文字で詳細プロット
- アナログでラフネーム
- スキャナで取り込んでPCでラフネーム整理整頓(これを担当さんに提出します)
- PCで下書き
- PCでペン入れと仕上げ
―文字プロットの段階で、セリフだけでなくシーンなども固めていくのでしょうか。

成瀬先生:そうですね。文字プロットの時点で、キメコマなんかは構図が頭の中にあります。あとは実際にネーム描いていく中で細かいコマは削ったり足したり。
―文字プロットにはかなりキャラのセリフが書き込んでありますが、これは所謂「キャラが勝手に喋る」という感じでしょうか?
成瀬先生:文字プロットは、あえてセリフで構成するようにしているんです~。これは、以前趣味で小説を書いていた頃の癖が悪いほうに出てしまうのを防ぐためなんです。
小説のように文字で説明してしまうと、絵に起こした時も説明セリフとかをすごく入れてしまうんです。なので意識してキャラのセリフでプロット書くようにしてます。
キャラが勝手に喋る場合もあるし、意識してあえてやってる部分もあるしって感じですね!
―先生はネームをふせんに描いてらっしゃるんですよね。原稿用紙でやられている方が多いイメージでしたので、驚きでした。

成瀬先生:原稿用紙に描いたりしてたこともあったんですよ~。でもしっくりこなくて、色々試行錯誤した末にこの方法に辿り着きました。
ネーム描き直す場合やシーンを入れ替えたい場合、ふせんを貼り直すだけで済む=消しゴムいらない、というずぼらが極まった結果です(笑)
―デジタル作業の場合、取り込んだものの拡大縮小も意のままですし、すごく便利ですよね。
成瀬先生:そうなんです。サイズの小さいふせんでも、スキャナで取り込んでクリスタ上で原稿の大きさに拡大すれば全然問題なくいけるので!
―こちらはネームと完成原稿の比較画像ですが、とにかく書き込みがすごいですよね…!

(C)竹書房・シュークリーム2017
成瀬先生:ありがとうございます!新刊の『セックス・アンド・ワールズエンド』は場面転換が激しいストーリーだったので、背景のディテールを誤魔化してしまうと「キャラが今どこにいるのか」が分からなくなってしまうもので、頑張りました><
-漫画を描く上での先生なりのこだわりをお伺いできますか?
成瀬先生:漫画を描き始めたのが遅くまだまだ未熟だと思っているので、凝った演出などには手を出さず、漫画の基礎をなるべく外さないようにしています。
一番は「視線誘導」を常に意識することですかね。

(C)竹書房・シュークリーム2017
成瀬先生:人が漫画を読むときに一般的に辿る目線の動きというものがありますが、これを引っかかり無く流れるようにスムーズに漫画で描いていくのが視線誘導で、これは基礎中の基礎と思いますが、まだまだ自分は漫画が下手なのでこれだけは守るようにしています。
トリッキーなコマ割りとかであえて視線誘導をハズしていく演出なんかもあるのかもですが、そういうのは自分では扱えないなと思うので、基本的にこの流れを意識するように描いてます。
―続いて、物語を考えるにあたってのこだわりをお願いします。
成瀬先生:キャラクターが全てです。逆に「物語」はそんなに凝った内容は考えません(考えられないのほうが正しい…)。
キャラクターに魅力があれば、どんなシンプルな物語でも面白く萌えられると思いますので、キャラクター作りが最重要課題です。難しいですが!
―魅力のあるキャラを作るための先生なりのやり方などはありますか?
成瀬先生:いや~、こればっかりはなんか急に天から降ってくるのを待つしかないですね!意識して狙い通りの魅力的なキャラが作れるようになったら創作者として最高だと思うんですが、難しいです!
目安としては読者さんにめちゃくちゃ好かれるかもしくはめちゃくちゃ嫌われると良いキャラなんだなって思いますが(それだけ人の心を動かすということで)、自分では判断つきにくいです。
―ストーリーやキャラクターのアイデアの源泉を教えてください。
成瀬先生:音楽を聴いていて、ストーリーの断片やキャラクター像がぽんと浮かぶことが一番多いです。その次が、映画・ドラマからの影響です。
―普段、どんなジャンルを聞かれているんですか?
成瀬先生:わたくし本当に好きなジャンルはメタルとかのめちゃくちゃうるさい系なんですが(笑)、何でも聴きますので、もちろんメタルからだったりもしますがメロコアだったりクラシックだったり洋POPだったりその時の気分で色々なので決まってませんね。
そもそもわたくしまだ兼業作家でして、普段音楽関係の仕事してますんで、日常的に音楽がかかってる場所にいるんですね。なのでそういうところからです~!
―なるほど!やはり、作家さんはご自身の趣味の範囲(音楽や植物など)からインスピレーションを受けられている方が多いですよね。
成瀬先生:わたくしの場合は、やっぱり生活の中心に仕事としても音楽(ジャンルは色々)と漫画があるので、なんかちょうどよく音楽側から創作意欲を補給してる感じというか…。
ですので、ストーリーの発想元になった曲とかは、連載中ずっと聴いてますね。無限ヘビロテで(笑)
―BLというジャンルだからこそ気を付けていることはありますか?
成瀬先生:ボーイズラブっていうくらいですので、ボーイズがラブしていることを常に心がけています。
―ボーイズがラブする上での先生のフェチやこだわりをお伺いできますか?
成瀬先生:ツイッターのプロフィールのとこにも書いてますし普段から言ってるんですが、わたくしロンゲフェチなのでかなりの高確率で髪が長めの男子ばかり描いてます。メンズの髪に対する執着がすごい。(笑)
あとは真面目な話なら、ボーイズのラブが描きたくてBL漫画を描いているので、必ずいちゃいちゃさせますし基本的にハピエン派です。
―商業BL作家としてデビューするまでの経緯やきっかけを教えてください。
成瀬先生:現在は漫画を描いていますが、オリジナルBL創作をし始めた頃は自分の趣味のHPで小説を書いていました(イラストなら描いてましたが、長編漫画は描き方すら知らなかったのです)。
そのうちに自分の作品を紙に印刷してみたくなり、同人誌を作りたいなと思ったタイミングでたまたま二次創作にはまり、その勢いで漫画描きにもチャレンジしてみたくなって、同人誌で漫画を描くようになりました。
その後、そろそろまたオリジナルBL創作も再開しようかなと考え始めたタイミングで当時の担当さんに声をかけていただいたのがきっかけで商業BL作家として描かせていただくようになりました。色々良いタイミングに恵まれてるなあと思います!
―漫画さんの経歴としては、もともと小説メインで活動されていたというのは少々珍しいですよね。
成瀬先生:そうなんですよね~、わりと皆さんに意外がられます(笑)
でも小説はほんと、妄想を形にしたいのでとりあえず小説を書き始めたという感じで、プロ志向とかはまったく考えて無くて趣味でしたね。
―そこから今度は漫画へ…というエネルギーがすごいですね!
成瀬先生:もともと、中学生くらいから同人誌はなんとなく作ってみたかったものの、やり方が分からなくてそのままになっていて(笑)二次創作にはまった勢いでやっと本気で作ろうと思ったのですけども、そのとき字書きさんとサークル組んでおりまして、その方がとても小説がお上手なんで「じゃあワイ漫画に転向する!!」ってなったという顛末です(笑)
―なるほど!(笑) でもそこから始まって、現在プロのBL作家として活躍されてる訳ですもんね。
成瀬先生:そうですね~なんだかありがたいことに、夢中で描いていたらここまで来てたという感じです。漫画描き始めた時も自分の単行本が出るとは夢にも思ってませんでした!
―ご自身の作品で注目してもらいたいポイントはどんな部分でしょうか?
(C)竹書房・シュークリーム2017
成瀬先生:先日発売になった新刊の『セックス・アンド・ワールズエンド』では1冊まるごと1つのカプで、自分的にも思い入れがあったせいかキャラがけっこう自由に動いてくれて、がっつりハピエンまで余すところ無く描けたと思っているので、ぜひ読んでいただきたいです!
―小説に比べると漫画の方が1冊の情報量が少なくなるので、その限られた尺の中で恋愛要素やキャラの背景などを表現するのって、なかなか難しいですよね。
成瀬先生:趣味の域とはいえ小説も書いていたので、どちらの苦労も分かるつもりなんですが、漫画が有利な表現、小説のほうが有利な表現があるので、逆に漫画側から見ると、小説はやっぱり1冊の情報量(時間経過など)が圧倒的に多いので、ふろしきを畳むの大変だなあと思いますよ!(笑)
―なるほど!(笑) 成瀬先生にとって、BLというジャンルでの漫画の強みってどのようなところでしょうか?
成瀬先生:BLに限らずですが、漫画の強みはやっぱり例えば「悲しい顔をした」って文字で説明しなくても読者さんに伝わるとか、そういう直感的なところじゃないですかね~。
あとキャラが立ってればそれで成立するところ(これは小説もそうですが)。
あとは、言葉でこれはイケメンな攻めだーって説明しなくても絵だけで伝わるところとか?いやイケメンに描けなかったらダメなので日々精進ですが…(笑)
―BLでは大事なベッドシーンも、漫画と文章では全然表現が違いますよね。
成瀬先生:ですね~~~!Hシーンも、漫画は効果音の威力大きいですね!あれがあるとエロい感じ出しやすいですが、小説家さんは語彙力を試されるところだなあと思います。
―商業BL作家として活動する上で、どういった点を難しいなと感じますか?
成瀬先生:限られたページ数の中で、描きたい内容の取捨選択をしないといけないことが一番でしょうか~。
エピソードを全部詰め込めばいいというものでもないですし、何を入れるのか担当さんと意見が食い違うこともあったり、自分の判断が絶対正しいと言い切れない場合もあったり、難しいなと思います。
もっと一般的な話なら単純に、先延ばしに出来ない締切が次々迫ってくるのがしんどい点ですかね(笑)
―趣味で自分の好きなように描くのとプロとして描くのとでは、やはり勝手が違う部分も多いですよね。
成瀬先生:ですね~。趣味だと、もう自分の気分の赴くままにずっと恋愛が出てこなくても誰にも咎められないわけですが、やっぱり商業はまず恋愛してもらわないといけませんし。
ただ、個人的には、商業で恋愛重視というのもお題創作みたいな感じで楽しんでます。
―反対に、BL作家になって良かったと感じることは?
成瀬先生:やっぱり、なんといっても沢山の方に作品を読んでもらえることです!
―読者の方に作品を読んで頂いているという実感が湧くのはどんな時ですか?
成瀬先生:定番ですが、お手紙やレビューサイトへ感想いただいたり、twitterなどで直接リアクションいただいたりする時ですね~。
―最後に、読者の方やBLを創作している方へのメッセージなどお願いします。
成瀬先生:いつも作品を読んで下さってありがとうございます。大好きなBLを描いて、さらにそれを読んで楽しんでもらえるなんて本当に幸せなことだなあといつも思ってます。
創作はとにかく描き(書き)続けることが大事だなと思いますのでこれからも頑張ります!
―成瀬先生、インタビューありがとうございました!

成瀬一草
BL漫画家
現在、電子BLアンソロジー「MIKE+comics」(道玄坂書房)にて『ホーム・スウィート・モッシュピット!』連載中。
▽刊行リスト
『女装上司の啼かせ方』(大都社)
『オネエさんは好きですか?』(竹書房)
『セックス・アンド・ワールズエンド』(竹書房)
▽刊行リスト
『女装上司の啼かせ方』(大都社)
『オネエさんは好きですか?』(竹書房)
『セックス・アンド・ワールズエンド』(竹書房)